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撮影裏話/寅/その3 [寅]

撮影を終えるとちょうどお昼時。お腹がぐ〜っと鳴る。

「なんだか温かいものが食べたいね」

冷え冷えとした顔で、ギギンガーがカメラマンの腕を掴む。冷たい。
目が訴えている、一刻一秒でも早くどこかへ連れて行けと。

一番近いとことにあった天下一品に飛び来む。こってりラーメンの温かさが、まったりと体中にしみ渡る。寒さで唇を紫色にしていたギギンガーも人心地ついたよう。満足して席を立ったその時、

「女優さんでっか」

話しかけてきた、隣の席に座っていたダンプの運転手風のおじさん。

「握手してください」

そう、ギギンガーはギギンガー化粧のまま、ラーメンを食べていたのである。
あまりの寒さにメイクを落とす心の余裕がなかったのだ。
確かに、この近くには京都の太秦があるし、京都は雑誌や映画の撮影がしばしば行われるから、おじさんもそう思ったのかも知れない。

ギギンガー、にっこり笑っておじさんと握手。

そういえば、前回の撮影の後は、阪急松尾駅の近くのパスタ屋さんでお昼を食べた。あの時はある程度落としていたが、若干髪の生え際などに金粉が散っていたため、ふたつとなりの2人連れのおばさんがちらちらとこちらを窺っていた。「モデル?」「撮影?」というひそひそ言葉が聞こえたが、やはりちゃんと話しかけてくれる方が気分はいい。

2度目のネガフイルムでの撮影は成功。やはり、背伸びして使い慣れないもの(ポジフィルム)を使ったりしたのが仇であったか。
ポジフィルムの研究という課題を残して、1年目、寅年の撮影は無事終了。

File0059.jpg

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